しばらくすると、デッカイ黄色い消防車がサイレンを鳴らしてやって来た。「どこかで火事かな」と思っていると、バスのうしろで停まった。どうやらこの件で、救急車ではなく、消防車が来たようだ。なぜだ。
それを見て、運転手は僕に、びっくりしたようなしぐさをして見せた。しかし、驚いているけれど、なんだか楽しそうにも見える。僕も驚いた表情をして見せた。
そして、ことはさらに大きくなって、もう1台大きな黄色い消防車がやって来た。今度は、はしご車だ。どうしてこうなっちゃったんだろう。部外者ながら、これでいいのかとさえ思えた。
さすがの運転手も、さらに驚いた様子で、僕の肩を2~3度たたいて……笑っている。今度も驚いてはいるけれど、楽しそうに見える。あまりにことが大きくなりすぎて、笑うしかなくなったのだろうか。なんだかわかるような気がしないでもない。
近くに座ってきたパチパチ君に、ここでようやく、「えらいことになりましたね」と話しかけてみた。彼もびっくりした様子だ。
少し話しただけで、パチパチ君は、僕が想像していたような人物ではなく、いたってまじめそうな人物であることがわかった。
騒ぎをよそに、どこへ行くのか聞くと、やはりアリゾナ・メモリアル。たぶん困っているのだろうと思い、このバス停から僕と同じ番号のバスで行けばいいことを伝えると、安心したようだった。
彼は、関西方面から来た人で、慰霊をするためにアリゾナ・メモリアルに行くのだという。「慰霊」という言葉を発する時、手を合わせるしぐさをするのが印象的だった。きれいに剃った頭、そして手を合わせるしぐさ、もしかしたらお寺関係のかたなのだろうか。すぐにそんなことも聞けず、うなずくだけにしておいた。きっと深い訳があるのだろう。
運転手は、降りてきた消防の人の所にいって、ニコニコ顔で説明をしている。やって来た人も、のんびりムードだ。はしご車までやってきて、バスで倒れている人間を助けるのだろうか。それも2台で。ということは、人命救助には、消防車が出るシステムなのか。この間、火事があったらどうするのだろう。救急車は有料だから、こんなことも起こるのか。頭が疑問だらけになってしまった。
やれやれ、ハワイ初日から、えらいことに遭遇できてしまった。前途多難の暗示か、あるいは厄払いか。さてどっちに転ぶことやら。