10時35分
アリゾナ・メモリアル到着。パチパチ君に、「お気をつけて」と声をかけ、お別れした。
あんなアクシデントがなければ、彼とも話すことはなかったのだから、不思議なものだ。短い間だったけれど、彼と話すことができてよかった。いつものことだけれど、人は、見かけによらぬもの。
実は、彼が降りる直前まで、自分も一緒に降りようか迷っていた。こんなチャンスはないのだから、降りてみたい気持ちは強くあった。先を急ぐわけではないから、降りてしまえばよかったのかもしれない。ハワイに行く前にも悩み、ここに到着するまでも悩んでいたのだから。そして、彼との出会いも、そうするように促されているように思えた。
ただ、いまだに、ここに降りる必要があるのか理解できないでいた。ここで起きた悲惨な出来事を認識するには、ここに降りなければならないのか、海底に眠る戦艦を見なくてはいけないのか。日本人として避けてはならない事実を確認するには、ここに降り立つ必要があるのか。
この空間でなにがあったのか、今までここを何回も通っていながら、そんなことを考えずにいた。パールハーバーと聞くと、拒絶感がわくのだ。もしかすると、つらくて、ここでなにが起こったのか、考えるのを避けていたのかもしれない。
それが今回、この空間を見ながら、悲惨な出来事が起きたことを考えていた。沢山の飛行機がこの上を飛ぶ、そして、地上に起こった惨劇。それが、この空間で起きていた。それはバスのなかからでも、思いを巡らせることができる。
もう二度と、あんなことが起きませんように……発車したバスのなかから、パールハーバーのほうをじっと見ながら、初めてそんな祈りとともに、この場所を通過した。