バスに人が乗ってくる度に、だんだんとうしろのほうに追いやられた。目の前にひとつ席が空いたけれど、背負っているリュックがじゃまするので座らないでいた(リュック、手に持つべきでしたが)。すると、いつの間にかバス停のオヤジさんが、空いた席の隣に座っていて、日本語で「どうぞ」と僕を手招きしてきた。
さっき会ったばかりの人なのに、なんだか旧知の知り合いに会えたようにうれしかった。ほんの何分前には、英語の授業は、もう沢山と思っていた人なのにだ。嫌なあんちゃんに遭遇したこともあったのだろうか。
お礼をいって、彼の隣に座る。やはり、リュックが窮屈だ。変な格好で椅子にちょこんと腰掛ける。窮屈だし、無様な格好のように思えた。これで、バス停と同じ状態となった。
彼ともっと多くのことを話したいのだけれど、それほどの能力がないもどかしさ。英語がまともに話せたらなぁと、いつもハワイに来ては思う。思って、日本に帰って勉強するのだけれど、今までなんら進歩がないから、これからもきっとそうなのだろう。
ちゃんとした話もできずに、バスは、ワイキキ・ゲートウェイ・ホテル近くのバス停に近づく。これで本当にオヤジさんとお別れだ。短時間の出会いだったけれど、なんだか、旧友にお別れするような寂しさが芽生えていた。
彼は、この2番でどこまで行くのだろう。ひとりでジャガイモを買って、ひとりで料理するのだろうか。そういえば、奥さんの話は一言もなかった。突っ込めば、あの不思議なバッグのなかから、奥さんが出てきたかもしれない。そして、彼が日本語を話す理由も……。
バスが停車し、お互いに手を振って、さよなら。なんだろう、この複雑な気持ち。面倒だと思っていたのに、お別れする時は、楽しい出会いをさせてもらったことに感謝していた。「ああ、心をもっとオープンにしなくては」と、いつもハワイに来ると反省させられる。日本にいると、閉鎖的な自分は、いつの間にか人を近づけなくなっているのかも。そんな自分を、いつもハワイは変えてくれる。少しでも長続きしますように。